◆ 第三世代(ORAS) ◆
鉱物と新人類のお話。
【※簡単な説明】
あるところに1人の少年がいた。
その少年は、とても優しく温かい心の持ち主だった。
毎日新聞やニュースで悲しい出来事が起こっている様子を見ると、眉をひそめ目に涙を浮かべる、そんな少年だった。
その少年は、隣に住む人間と宝晶人、二つの血が混ざりあったハーフの少年にも分け隔てなく接してくれた。二人はすぐに友達になった。
ずっとこんな平和が続くと思っていた。
ある日、大災害が起こった。
グラードンとカイオーガの主が、陸と海、どちらの領土を広くするかで争ったのが原因だった。
関係のない人たちが巻き込まれ、目の前で無残に死んでいく。
少年は心を痛め、ジラーチに願った。「レックウザを召喚して下さい。この世界を元の平和だったあの時に戻してください」と。
グラードンとカイオーガの争いを止めることができるのはレックウザだけ。
少年の願いは届き、ジラーチは目覚めた。
しかし、ジラーチの力には、代償があった。
なんでも願いを叶える代わりに、その願いはジラーチが眠っている千年しか持たないというものだった。
ジラーチが目覚めるとき、世界は再び大災害に見舞われると。
少年は胸を痛めた。今、この瞬間から世界が元に戻ったとしても、千年後同じような争いが繰り返されると知ったからだ。
少年はジラーチにもう一つお願いをした。
「君の千年の眠りに僕も連れて行ってほしい。千年後に君が目覚めて、世界の平和を願う者が現れなかった時、僕が代わりに世界の平和を願えるように」と。
少年は世界の平和のために、自分の人生を捧げた。
親友は見ていられなかった。彼にもしものことがあってはならない。
だから少年と契約交わしたいと申し出た。人間と宝晶人のハーフである自分ならば、少年と一心同体となれる。少年をずっと守っていきたいと。
最初は頑なに断っていた少年だったか親友の熱意に承諾した。
こうして二人はジラーチと同じ運命を辿ることになった。
それから千年後。ジラーチと共に少年と親友は目覚めた。
ジラーチも目覚め、大災害が降り注いだ。
少年は待った。かつての自分のように平和を願ってくれる者が現れるのを待った。
しかし、千年の平和に享受していた人々の中から、平和を願う者は誰一人としていなかった。
少年は悲しんだ。けれど、「僕がいるから大丈夫」と千年前と同じように、ジラーチに祈りを捧げた。
そしてその願いは、何十回と続いた。
もう数えるのを止めるほど、時が経ったある日。
終わりの見えない眠りに、精神的にボロボロになってきていた少年は人々に質問をした。
「ジラーチが目覚めた今、大災害が起こっている。自分たちの世界が壊れてもいいのか?ジラーチなら叶えてくれる。千年平和が続くんだ」と。
答えは「誰かがやってくれるだろう」という他人任せな言葉だった。
そして人々は、少年の本当の答えを待たずにこう凶弾した。
「そんなに言うならお前がやればいい」
それは誰もが思うことではあった。誰だって自分を犠牲になんてしたくない。けれど平和はほしい。貪欲な人間らしい感情だった。
少年は「自分を犠牲にしてでもこの世界を守りたいと、そう願ってくれる人がいる世界なら、僕は誇りを持って何十何百と繰り返される、千年の眠りにだって耐えられる」と、そう言いたかったのに。
人々に犠牲になれと言いたいわけではない。
自分たちの世界を守る覚悟がある人間が残っているか聞きたかっただけなんだ。
誰も話を聞いてはくれなかった。
ちょっと耳を貸してほしかっただけなんだ。
少年は思った。
「こんな世界、本当に守る価値はあるのか?」
ジラーチは囁いた。
「こんな世界、壊してやろう」と。
親友は叫んだ。
「そちらに行ってはいけない。僕がそばにいるから。僕も背負うから」と。
親友はハーフとは言え、長寿であり、人間ではない。
そのため、人間の時間間隔を持っていた少年との意識のすれ違いに、あと一歩気付くことができなかった。
親友が引き留める声も虚しく、まともであった少年は、繰り返されるループに触れ、身勝手な人間たちの欲望に触れ、ついに壊れてしまった。
何回も何回も繰り返された。何回も何回も願ってきた。
人類と世界に永い平和を与えてきた。
それなのに。
人間はなにも変わらない。
あんなに優しかった少年の心は、堅く閉ざされてしまった。
親友の声ですらもう届かない。
「世界を救うのは、もうやめた」